バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉で、具体的には、いろいろな農林水産物、稲わら・もみ殻・家畜の糞尿・木くず・食品廃棄物などをさします。バイオマスのうち、木材に由来するものを「木質バイオマス」といい、樹木の伐採や造材したときに発生する枝・葉などの林地残材、製材工場などからでる端材やオガクズ、街路樹の剪定枝や住宅の解体材などがあります。これまでは、廃棄物として焼却されることが多かったのですが、ダイオキシン規制強化などにより、平成14年12月から従来の古い焼却施設が使えなくなったこともあり、林業や木材産業の関係者の間では、木質バイオマスの有効利用への関心が大変高まっています。
・環境にやさしい再生可能な資源
かつての暮らしの中では、薪や木炭などが燃料の主役でしたが、40年ほど前からは、石油などの化石燃料を大量に消費する社会へと変わってしまいました。しかし現在、地球温暖化防止、循環型社会形成などの観点から木質バイオマスが脚光を浴びています。地中深くに眠っていた石油などをエネルギーとして利用すると、地球温暖化の原因の一つである二酸化炭素が大気中に放出されます。木材を燃やしても化石燃料と同じように二酸化炭素が放出されますが、それは元々樹木が光合成によって吸収したものであり、大気中の二酸化炭素を増加させません。利用した木材の分、再び木を植えれば光合成によって二酸化炭素が吸収されて木材の中に炭素として蓄積されます。木質バイオマスは、循環的に利用している限り持続的に再生可能な資源、クリーンなエネルギー源であると言えます。
木質バイオマスの利用状況をみると、かなり以前から、紙・パルプ工場からでるパルプ廃液(木の成分が多量に残っている)は100%回収されて、工場内で電力や熱として利用されています。最近、国内各地の製材工場などでは、重油や灯油用ボイラーに代わって、自らの工場からでる端材やオガクズなどを燃料として利用できる木くず焚きボイラーの導入が進み、木材乾燥や暖房などのエネルギー源として利用されています。
・バイオマス利用は世界的な動向
近年、バイオマスは世界的に注目され、欧米の多くの国々では、バイオマスエネルギー利用を進める動きが広がっています。EU(欧州連合)では、2010年までに総エネルギー消費量の12%を再生可能エネルギー(バイオマス、風力や太陽光等)とする目標を掲げ、大部分をバイオマス利用で達成しようとしています。スウェーデンでは、既に全エネルギーの2割近くがバイオマスエネルギーです。国内でも平成14年12月、国家戦略として「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され、バイオマスの総合的な利活用の展開方向や達成すべき目標などが明確にされました。
スウェーデン・ストックホルム市郊外にある木質チップを原料とする発電所。
燃料となる木質チップのストックヤード。
最近、利用されずに放置されたり、廃棄処理されてきた林地残材、製材工場などからでる端材やオガクズなどの木質バイオマスを有効利用するために、各地で官民が一体となった、新しい取り組みが目立つようになってきました。
・木質バイオマス発電所
秋田県能代市の「能代バイオマス発電所」は、企業独自ではなく地域ぐるみで建設されたものとしては、全国初の本格的な木質バイオマス発電所と言われています。製材協会などを組合員とする能代森林資源利用協同組合によって運営されており、地域の製材工場などからでる樹皮や端材などをボイラーで焼却し、発生する蒸気で発電機を回転させています(電力3000kw/時)。生産された電力と蒸気の大半は隣接する木質ボード工場に販売され、電力は工場や事務所などで、蒸気は木質ボードのプレス機や乾燥機の熱源として利用され、事業としての採算性も確保されています。
このような電気と熱の両方を生産する方式をコージェネレーション・システム(熱電併給)と言い、現在各地でいくつかの計画が進んでいます。
また、小規模でも効率のいい木質バイオマス発電システムとして注目されているのが、木材を直接燃焼させるのではなく、蒸し焼きにして発生するガスを利用する木質ガス化プラントです。実用化をめざして民間企業などでの研究開発も盛んになっています。
秋田県北部の能代市に完成した「能代バイオマス発電所」。毎時3000kwの発電能力がある。
能代バイオマス発電所敷地内の樹皮・端材のストックヤード。地域の未利用材の有効利用ができるようになった。
・木質ペレット工場
木質ペレットとは、木材の端材やバークなどを粉砕し、円柱状に圧縮成型した固形燃料(直径8㎜、長さ15㎜ほど)。大阪府森林組合は平成14年、高槻市内に木質ペレットを生産する森林資源加工センターを完成させました。埼玉県飯能市にも15年5月に工場が完成したほか(西川地域木質資源活用センター)、各地で具体的な計画が進行しています。木質ペレットは、公共施設などのペレットボイラーやペレットストーブの燃料などとして利用されています。
ペレットストーブはほとんどが輸入品でしたが、地場産業の鉄器や鋳物技術を取り入れた国産ペレットストーブ開発が岩手・山形・埼玉県などで行われ、個人購入も可能になってきました。電源スイッチや火力調節つまみなどがあり、木質ペレットも自動供給され、従来のストーブのような感覚で扱うことができます。また、木質ペレットは薪よりも扱いやすい上、燃焼効率が高く、火の温もりが感じられるのが魅力です。
これが木質ペレット。木部のみを使用したホワイトペレット、全木を使用した全木ペレット、樹皮を原料としたバークペレットなどがある。
開発が進む国産ペレットストーブ((株)山本製作所/山形県天童市)。公共施設などでは、ペレットボイラーの導入も始まっている。
このほかにも、木材成分のリグニンおよびセルロース系成分を活用した生分解性プラスチックの研究開発が進んでいます。リサイクルが可能で、暮らしの中での利用が実現すると、廃棄物を減らすことができます。また自動車燃料などとして利用することが可能なエタノールやメタノール製造、メタノールなどからつくられた水素の燃料電池への活用などの実用化に向けた取り組みも加速しています。
参考資料
●木質バイオマス発電への期待(熊崎実著)/(社)全国林業改良普及協会
●森のバイオマスエネルギー(全林協編)/(社)全国林業改良普及協会
●森のバイオマス利用アイデア集(全林協編)/(社)全国林業改良普及協会
〈関連サイト〉
●林野庁
http://www.rinya.maff.go.jp/
●バイオマス・ニッポン総合戦略
http://www.maff.go.jp/biomass/index.htm
●森の窓 木質バイオマス関係のリンク
http://www.plaza.across.or.jp/~hsgwtks/biomass.htm
●木質バイオマス利用研究会
http://www.jabio.org/
●バイオマス産業社会ネットワーク
http://www2u.biglobe.ne.jp/~poema/
●バイオマス・ニッポン総合戦略
http://www.maff.go.jp/j/biomass/index.html