原木安定供給システム
森林の持つ多面的機能と言いますが、それに頼っているようでは林業の自立は有り得ないと内心思っていました。でもところ変われば事情も変わるものですね、木材生産で自立を果している人々が、多面的機能の保全のために立ち上がっている地域も日本にはあるのです。古い話題になってしまいましたが、大事な記録なので書いておきたいと思います。
3月14日、長野県林務部信州の木活用課が主催した第2回原木安定供給システム研究会に行ってきました。これまで外国産木材を主に利用していた合板メーカーが、原料の調達先をどんどん国内へ切り替えており、長野県では、計画的に山の木を活かしてゆくための「次世代型県産材供給システム」というものの開発が進められています。
今回は、この供給システム開発の進捗状況の報告に加えて、すでに活発な素材生産が行なわれている宮崎県から、素材生産業者がこれからの山造りを考えるために集まり設立したNPO法人ひむか維森の会の代表者を招き、その活動や宮崎の山の現状を聞き、最後に県内で活躍している素材生産業者を交えてのパネルディスカッションが行なわれました。
残念ながら画像ではわかりませんが、パネルディスカッションで感じたのは「若さ」です。現場に近い人たちを引っ張り出した主催者の粋な、そして合理的なたくらみがよく伝わってくる人選でした。こういう場所に出てしゃべる、ということも、実は後日仕事の内容に影響してくるものです
次世代型県産材供給システムは、システム構築のための県内業者へのヒアリング、プロセッサによる自動検知・集計・通信システムの開発、生産・流通情報管理システムの開発の3本だてで行なわれており、ヒアリングの集計結果もさることがなら、これまで人手で行なっていた現場の丸太生産量の把握と流通状況が、丸太短径の木部と樹皮の検知を自動化し、丸太にICタグをつけることで、リアルタイムで行なうことができるようになるというハード部分の仕上がりも、とても楽しみなものです。
県林務部次世代型検討チームによる宮崎県の現状報告は、「九州・宮崎で起きていること」という、いささかショッキングなタイトルのもと、わが長野県とはまったく違う生産先進地の実態が紹介されました。
冒頭に書いた「ところ変われば…」の背景がこれです。
H18木材統計によると、長野県の素材生産量は約26万7千立方m、宮崎県は126万8千立方mです。ちなみに森林面積は宮崎の方が長野の3/4程度です。木が売れて林業が自立できているから素晴らしい、と思いきや、裏側には多くの問題もある、というのが今回のいちばん重要な部分です。
報告では、投機系の森林所有者の存在、山村の高齢化・過疎化による林地の売却、増える再造林放棄地等の問題が指摘されており、宮崎県には累積で2,000haもの未済地(伐りっぱなしのところ)ができてしまっているそうです。つまり、皆伐して売るだけ売って、あとはほったらかし、という山が年々増えているというのが問題化しており、NPO法人ひむか維森の会では「山の荒れ」を食い止めるべく業者自らが伐採搬出ガイドラインなるものを作り上げ、これから普及させてゆくのだそうです。森林の多面的な機能を拠り所に、さまざまな税金による手当てで食っている事業体が多い県とは、かなり様子が違うと感じました。
森林県でありながら林業県ではない長野県。山からなかなか木が出てこない理由のひとつとして、よく働き手の不足が語られますが、今回の宮崎からの報告を聞いていて、単純に働き手の数だけが確保されても、絶対に山は良くならないことがはっきりとわかりました。
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