戦後復興を支えたもの(ちょっと抽象的な文章)
山には時々不思議なものが落ちています。画像に写っているのは、昨日まで作業を行っていた天然生林で見つけました。さて、これは何?
先輩にたずねたところ「かん」と呼ぶものだそうです。漢字ではどんな表記になるのでしょう。「閂」、はたまた「貫」でしょうか。山から材木を引き出す土引きという作業の際に、これを丸太に打ち込み、馬で引き出してきたとのこと。
ご覧のとおり、鎖の部分には特に手づくりの味がにじみ出ていますよね。かつてはどの村にも必ず何軒か鍛冶屋があったそうですから、このかんも村の鍛冶屋の手によるものでしょう。こうした戦後復興期まで現役だった「山の痕跡」を見るたびに、私は言葉にならない気持ちに包まれてしまいます。
山、川、海。第一次産業。これらが人の命を支えているという実感を、はたして私たちは再び感じることができるようになるのでしょうか。
ところが次の瞬間、いつもある種の感動がやってきます。これを言葉にするのも難しいことですが、しいて言えば、例えば「かん」のことを昨日のことの様に話してくれる先輩が居ることの幸福でしょうか…。 大げさに聞こえるかもしれませんが、山村はまだ、その資源と知力でこの国の戦後の奇跡的な復興を支えてきたことの誇りを失ってはいません。先輩と話しているとそれが伝わってくるのです。
ですから、もしもこれを読んでくださっている方で山村起業を考えている方がいたら、その点を大切に考えてほしいのです。ノスタルジーで言っているのではありません。一心不乱に走り続けた経済性、効率性優先の、個人の集まりでしかない社会が過ちに気付くとき、私たちの生存の鍵を握るものが温存されているところが山村なのです。
コメント
Posted by: 突然のM [ 2007年3月17日 18:28 ]
山から材木を引き出す土引きという作業の際に、これを丸太に打ち込み、馬で引き出してきたとのこと・・・・
私は、人力で使用しています!
たまにですけどネ!
Posted by: かなめ [ 2007年3月17日 21:35 ]
Mさんが材木出しもやっていたとは、初耳です。
>私は、人力で使用しています!
と言うことは、この道具現役なのですね。私はてっきり絶滅した道具かと思っていました。林業はなんと奥深いのでしょう…。そして、これをトンテンカンと作っているところがあるということには、大変な勇気をもらいます。
Mさんのところでも「かん」と呼んでいるのでしょうか??
Posted by: 突然のM [ 2007年3月18日 09:23 ]
今でも、売ってるみたいですよ~!「トチカン」
http://homepage2.nifty.com/s-kawai/sanrin_hamono_hanbai.html
Posted by: かなめ [ 2007年3月18日 23:59 ]
ほほぉー。トチカンと言うのですね。紹介していただいたのは、岐阜県のお店ですね。ネットで年間いくつぐらい売れるのだろう?などと変な心配をしてしまいます(笑)。
作っている鍛冶屋さんをぜひとも見たくなってしまいました。いつも貴重な情報をありがとうございます。
Posted by: 木曾仙人 [ 2007年3月23日 11:18 ]
初めてお便りします。
いつも楽しく拝見させていただいております。
この道具は「トチカン」が通称です。
われわれの地方(木曽)では【キリマワシ】といいます。飛騨地方では【カン】あるいは【ヒキカン】と呼んでいるそうです。
昔から、馬曳き搬出の際に使われており、人力曳きの時にもいろいろなサイズがあって使い分けされてきました。
現在も長野県の中信地方では、それぞれの地区で御柱祭が行なわれており、小さな社でも御柱を建てます。その御柱を出すときには必ずこの道具を使って曳きだすのがしきたりとなっています。
矢の形状もいろいろあって現在、市販されているものは非常に薄くて何回もの使用に耐えないものが多いです。写真のように身が厚いものは本当に地域の鍛冶屋さんの手造りと思われます。ちなみに木曾のものも身が厚くできています。また、木曾で使われていたものでクサリのついているものは殆んどありません。矢に直接、環(名前の由来もここにあるのかな?)がついておりそこへ【しょいな(ロープ)】を結わえて曳きます。
小学生の頃、親父に連れられて山へ薪木を作りに通いました。自分専用の【カンブチ(小手斧)】と【キリマワシ】を創ってもらい、「いっちょまえの山師」気どりで小さな材を斬って曳きだしたことを想いだしました。
Posted by: かなめ [ 2007年3月25日 00:18 ]
木曾仙人さま ようこそ。返信が遅くなってすみません。
「トチカン」は御柱で使っているのですね。当地でも
御柱祭があり、何度か見ているのですが、勉強不足でした。
自分専用のカンブチとキリマワシとは、筋金入りの林業
教育を受けていたのですね。いろいろと詳しい情報を
ありがとうございます。私たちも購入の際には参考に
いたします。実を言うと、いつか馬で材を曳きたいねと
話しているのです。…ほんとうです。
Posted by: 木曾仙人 [ 2007年3月26日 09:55 ]
馬で曳きたい・・・いいですね。でも大変、難しいでしょう。
キリマワシを使用する際は、カンブチとショイナがセットとなります。カンブチはご存知のとおり、立木の伐倒時に楔を打ち込む道具です。名前もここから来ている様です。(トチカンをブツ(打つ)から。)種類にはキリヨキとワリヨキがあり、木曾ではキリヨキ型が多かったです。
ショイナは背負い縄のことで肩当があります。これは曳くときに肩と腰に荷重が懸かるため柔らげるためのものです。大婆ちゃんが着物の古布を大切にとっておきそれを編みこんでカラフルで子どもの肩にあった物を手編みで作ってくれたものでした。
①このトチカンを材のどこへ打ち込むと思いますか?②ショイナの長さはどれくらい?③牛や馬へはどうやって連結する?
木曾地方では、馬は【お馬様】といって崇め奉っており、木を曳かせる?なんて大それたことはやってはいけないことで、搬出はもっぱら、キリマワシを使った人力か【木馬キンマ(木橇)】で行なっていました。
塩尻地区では、昭和50年代頃まで牛・馬曳きが現存しており私も何度か見ていますが、やはり木馬を使っていました。
問題は馬です。どちらかというと象に近い体型の馬が使われていました。今のスタイル抜群のサラ系馬では絶対に無理でしょう。(ばんえい馬でも探せればよいのですが)。
そして馬用のショイナが必要なのです。鞍に結わえることは馬のお腹を絞めることになり、馬は動いてくれないそうで、そのショイナがないのです。
かなめ様の地区ではどのようにやっていたのでしょうか?。ぜひ、調べてみてください。私ももう一度、木曾の古老を訪ねてご報告したいと思っていますのでよろしく。
Posted by: かなめ [ 2007年3月27日 22:30 ]
木曾仙人さま、書き込みをありとうございます。
返信が遅くなってしまいました。すみません。
よきのことやしょいなのことなど、興味深いことばかりです。
トチカンはとうきんにぶち込むのだけれど、木のめを見ないと、曳くときに材がころがる。
と聞きました。断面から軸方向に見たときの曲がり具合や、回転方向の
重心を見るということなのでしょうね。
きんまは、このカンのことを教えてくれた師匠の組んだものが、我が村に
展示されていますので、いずれこのページで紹介いたします。そのかじ棒に
もしょいながついていました。
牛、馬曳きをリアルタイムで見ていらっしゃったというのは、たいへんに
羨ましいことです。いったい、どのように馬側に固定していたのでしょうか、見当がつきません。
ばんえい競馬が経営危機と聞いたとき、不謹慎にも「これはある種
チャンスかも」と思ってしまったのは、私だけだったのでしょうか。