10_山の守り方はいろいろあるのよ・福田珠子さん(林業・エンジョイフォレスト女性林研代表・全林研女性会議代表/東京都青梅市)
築200年以上という風格のある屋敷の居間に、風がそよぎ渡る。縁側の簾越しにサルスベリの赤い花が見事だ。庭からアブが一匹入り込んでせわしなく飛び回る。「私は開けっ放しが好きなので御免なさいね」大ぶりの団扇を使いながら珠子さんが言う。地元の街場育ち。福田家に嫁ぐまで、山にはさして縁がなかった。14代目当主の夫も、山は庄屋(山仕事の番頭を意味する地元の呼称)まかせ。平成6年に夫が亡くなって初めて山と向き合った。当時200町歩以上あった持ち山の境界を歩き回り、山の多様な可能性を知る。経営の方法論を探って都内の農林家と親交を深める中で、川上から女性の声を発信する必要性にも思い至った。「暮らしを支えている女性が声を出さないと、山の文化を川下にちゃんと伝えられないと思ったの」と珠子さん。その思いを「見直そう森の恵、残そう東京の山、伝えよう木を生かす文化を」のスローガンに込め、平成10年に女性林研が発足した。これ以外にも、活動は多岐に渡る。
その一つ、都市部・武蔵野市と珠子さん、そして東京都農林水産振興財団の三者の協定で運営する自然体験フィールド「二俣尾武蔵野市民の森(フォレストガーディアン)」は福田邸のすぐ裏山。土地は珠子さんが無償で提供している。比較的なだらかな約3町歩の人工林の中を遊歩道が廻る。所々に作られたデッキや遊具は、土曜教室に参加した子どもたちが作った秘密基地。「柱さえ見えない住宅に住む子ども達には、木の文化といっても通じない。遊びながら木の肌触りを知れば、実体験が記憶として残る。将来家を建てるときに木を選ぶかもしれないでしょ。これも山の守り方だと思う」と珠子さん。
「山は時間の単位が長いから、目先の利益を追うばかりじゃ息が切れちゃう。自分を含めてみんなが嬉しいことを山を使って行って、ドーンとかまえていれば、回り回っていつか返ってくると思うのよ」
(『林業新知識』2007年11月号より/絵と文・長野亮之介)