07_素人でも出来る林業を目指す・安本吉明さん(安銀林業代表/静岡県静岡市)
安本さんは材の搬出の9割以上をヘリコプターで行っている。出すのはヒノキ枝打ち材。末口直径18㎝、6mの通し柱用材が主流だ。
持ち山約100町歩の大半が急峻で高い標高に位置するため、総合的にヘリ集材の効率が良いと判断した。「ヘリなら一日200本は出せる。戦後の山だから中径材だけど、架線を張る日数や人件費と比べれば採算の取り様はある。危険も少ないし、残す木に被害を与えないのもメリットだね」と安本さん。立方当たり1万5000円のヘリ輸送費を賄うために、立方単価5万円以上の木をしっかり選ぶという条件を自ら課している。
昭和46年から家業の製材業を長らく営んできた。様々な事情で仕事に見切りをつけ、“安銀林業”を立ち上げたのが平成14年。その間、山仕事に熱心な父親が持ち山の管理をして来た。昭和40年代から枝打ち材生産に取り組み、良材の蓄積があったことが、今の施業方針の前提になっている。
転業を決め、まず徹底的な持ち山の現状把握に努めた。施業履歴、蓄積、現場への交通環境など全ての記録を元に現場を歩く。並行して各地を視察し、施業や経営のヒントを積極的に求めた。「俺は林業の素人だからさ、人の知恵を借りるしかないんだよ」とうそぶくが、見せていただいた何冊ものノートに、びっしりと記録された努力の跡は並大抵ではない。
そんな時、シカ対策用のネット資材をヘリで運び上げる現場をたまたま見た。持ち前の探求心を働かせて研究を重ねた結果、第一回目のヘリ集材を2年前に行った。以来計4回のヘリ集材を行っている。
「一年でも早く伐れて、一円でも高く売れる木を作るのが目標。だからこそ、市場で価値の付く適期に出したいさ。今後も枝打ち材を基本にして間伐にも力を入れるよ。良い木を作れば、山も俺も健康になるからね」と吉明さん。長男に続いて、次男も最近安銀林業に就業した。緻密な計算と旺盛な好奇心が基本となった、吉明さんの大胆で魅力的な経営が山に人を呼び始めている。
(『林業新知識』2008年7月号より/絵と文・長野亮之介)