05_一歩踏み出せば何でもできる・芦沢等さん(サラリーマン林家/山梨県南部町)
静岡の県境近く、富士川沿いの急斜面に芦沢さんの所有林がある。ほぼ全面的に植林された13町歩の7割方がスギで、残りはヒノキだ。この日案内して頂いた場所は約7町歩のスギ・ヒノキ林地。町が開設した造林作業路から、等さんが手掘りで開いた細い作業道を登ると、枝を払った丸太がずらりと並んでいた。「三度目の間伐が終わって、これから搬出するところです」と等さん。急傾斜で機械も使えず、架線を張るほどの量でもないことから、大方は四輪駆動車のワイヤーを使いながら手作業で集材した。所有林は概ね2〜3回の間伐を終え、年間平均60〜70立方を出している。「子どもの頃からやっているので、そう大変じゃないよ」という芦沢さんは、休日だけ山に入るサラリーマン林家だ。
代々の農林家の4代目。子どもが親の仕事を手伝うのが当たり前の時代だったから、父について山を歩き、林業の基礎的な知識と技術は若いうちに自然に覚えた。8人兄弟の上から4番目の次男で、高卒後はコックを目指して上京する。その後事情で家を継ぐことを決意し、22歳でUターン。当初は地元の森林組合で事務職を担当する。結婚し、35歳で民間企業に転職してから山仕事を再開した。当時はまだ材価も良く、副収入を得る目的で踏み出した一歩だった。勤め人にとって貴重な休みを費やして山に入ることに躊躇はあったが、いざ始めてみると経済的な利益より山仕事自体の面白さに惹かれている自分に気づく。好きだったゴルフよりも、今は山の方を選んだ。「空気は良くて静かだし、体力維持やストレス解消の一石二鳥がタダで出来る。林業は日常生活とは違う時間単位の世界だから、いつか良いときも来るだろうって大らかに構えているよ」と等さん。4、5年前からは覚己(さとみ)夫人が手伝う機会も増えた。「山を持っている人は、ちょっとでも良いから手を入れてみて欲しい。最初の一歩を踏み出せば何でも出来ますから」というのが、芦沢さんからのメッセージだ。
(『林業新知識』2008年5月号より/絵と文・長野亮之介)