01_地元の山から明るくしたい・安江正秀さん(杣林代表・加子母優良材生産クラブ/岐阜県中津川市加子母)
「これは天然木ですね」。比較的平坦な約3町歩のヒノキ・サワラ林の中、作業道脇の不良木を伐り倒した安江さんが伐根を見ながら言う。周辺の植栽木に比べて芯が詰まり、色味も濃い。裏木曽街道の通る加子母は木曽ヒノキの産地としても知られるヒノキ適地なのだ。地元製材所も多く、林業地としての環境が良い土地柄だが、近年は手入れの遅れた山も少なくない。「この山はもうすこし強度に間伐して下草の入る、誰が見ても綺麗と思える山にしたい。将来的には複層林に仕立てて行ければ」と正秀さん。平成19年に「杣林(そまりん)」を立ち上げたばかり。森林組合の下請けだけではなく、山主に施業提案をする積極的な営業を心掛けている。手を入れれば、山がどう変わっていくのか、山主に山造りの計画を分かり易く解説するためにも、これまで自分が手掛けた山林の経年変化をこまめに見て回る。
製材所経営や森林組合勤務を生業とした父親の影響か、自然の成り行きで山仕事を志した。県林業短大(現・森林アカデミー)を出て上萩(現・恵南)森林組合に就職。大学で学んだ理論を、実践でみっちり修行した3年間だった。研修期間中に、胸高直径80㎝くらいの木を伐ることに。巨木に対峙したときの緊張感、畏敬の気持ちは忘れられない。「あの経験が僕の山仕事に対する意識を変えた。山で生きていく決意をしたスタートでしたね」と正秀さん。その後、郷里の加子母森林組合に約7年務め、一昨年退職。準備期間を経て昨年の独立に至る。「山仕事は生活の糧であると同時に地域環境作りのライフワーク。山主さんに喜んでもらえる山作りが第一の目標です。地元の山が自分の基盤である事は将来とも変わらないけど、声がかかれば全国どこへでも山造りに行きたい」。地元林研「加子母優良材生産クラブ」の活動にも積極的に関わり、心強い先輩や仲間に囲まれて順調なスタートを切った。林業地の伝統を継承し、頼りになる地域のリーダーを目指して、今後ますます活躍の場を広げていくつもりだ。
(『林業新知識』2008年3月号より/絵と文・長野亮之介)