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トップページ > 農山村の背景情報 > 山で生きる・森をつなぐ仕事<part.3>

農山村の背景情報

06 山に暮らすことが山を守ること・原薫さん(柳沢林業/長野)

06_原さん.jpg 林道からすぐ下に見えるスギ林内でチェーンソーのエンジン音が響く。間伐された材が全幹のままスイングヤーダで引き上げられると、原さんはオペレータと合図を交わしながら元口を切り落とす。作業状況に応じて自分の役割を判断し、テキパキと動く姿に迷いがない。
 山とはあまり縁のない、神奈川県の市街地で育った。環境問題に興味を持ち、大学で農業化学を専攻。卒業後、教員を目指して勉強を続けている最中に、木挽き職人の手記と出会う。在学中に静岡県内にある演習林を訪れて以来、漠然と抱いていた山暮らしへの憧れが、「職人」と言う言葉を得て具体的に見えた。「いてもたっても居られなくなって」演習林を訪ね、教官のつてで地元森林組合に職を得た。事務と同時に現場に関わるようになり、架線集材の持ち場を得て「職人」としての知識と実践を蓄積する。山に暮らす先達に教えを請い、師と呼べる人とも出会うことができた。仕事だけでなく、古老達の山野に対する造詣の深さや、生活の知恵に感銘を受けた。
 現場の作業に理論的な裏付けが必要と感じ、島崎山林研修所(長野県伊那市)の門を叩いてから7年。原さんは今、柳沢林業で男性陣に交じり素材生産に汗を流す。「以前は男性に負けまいと動き回ったけど、最近は現場全体を見渡すようにしています」と原さん。自分の持ち場をその都度変えながら、現場がスムーズに回るよう心を配る。年齢を重ねるごとに、女性であることにも逆らわなくなった。
 林業を天職と考えながらも、山を巡る経済環境は依然改善されず、このままでは山村社会、山を志した自身の将来も危うい。「本当はもっと山の中に暮らしたい。山に住むことが山を守る原点だと思うから。でも、今暮らすところは町に近い。地の利を活かして、伝えていくことにも重点を置きたい」。子どもたちへの環境教育、山と川下を結ぶ「木の家造り」をキーワードに、新たな展開を模索中だ。(絵と文・長野亮之介)

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