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農山村の背景情報

山で生きる・森をつなぐ仕事<part.2>

手をかけた分、返ってくる

千島国光さん(千島山葵園経営/東京都)

12_千島さん.jpg 標高500mほどの山腹に、石垣で組まれた幅4m程のワサビ田が、約1キロに渡って続く。日陰で凍てついた田でも、氷の下でワサビの葉が緑のまま呼吸しているのが判る。「空気と水が十分に根に届くように、石や砂利の大きさを工夫して組んだ床だから大丈夫。収穫は一年中出来るけど、旬は11月から3月。この時期が一番辛くておいしいよ」と国光さん。
 田に沿って設けられたモノレールで移動しながら、田一枚毎に寒冷紗をかける。沢からの水路では必ず流れを確認。沢を堰き止めて水を導き入れたり、水路の土砂を素手で掻き出すことも。「水の管理が一番大切なの。なかなか父のようには気が回らないけど」と後継者の久美さん。
 国光さんがワサビ作りを始めたのは約35年前。それ以前は都有林の伐木作業員だった。ワサビの生産適地である奥多摩には、当時130名程の生産者がいた。先達から技術を覚え、伊豆に研修などを重ねる。奥多摩の沢を巡り歩き、候補地の気温、水温、水量などを年間通して測定した。その上で最良の場所を決定。当時は道も重機もないから、人力で石垣を組んだ。基盤作りにしっかり手間をかけたからこそ、足を運んで細かく気を配れば、応えてくれる。昭和60年頃から加工品も始め、経営安定のための努力は惜しまない。
 6年前から、町の主宰するワサビ塾の講師を務める。後継者の久美さんは二期生だ。久美さんが植えた田を掘ると、200g程ありそうな立派な根が。「これならプロの仕事だな」。父であり、師である国光さんの言葉に久美さんが満面の笑みを浮かべた。(絵と文・長野亮之介)

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