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農山村の背景情報

山で生きる・森をつなぐ仕事<part.2>

 
里山を彩る水車の音色

浅田邦三郎さん(スギ粉生産/栃木)


09_浅田さん.jpg ダッタダラコ、ダッタダラコ、ドドッドン、ドドッドン……。稼働中の水車小屋の中はリズムに満ちている。ミネバリやクヌギ製の8本の杵が、順々に歯車と噛み合っては落ち、臼を突いて地響きを立てる。細かい粒子が舞い、スギの香りが濃く漂う中、積み木の兵隊が行進しているような杵の動きが目にも面白い。「音に合わせて歌うんだ。どんな歌でも合うよ」というのは、水車製粉業三代目の浅田邦三郎さん。
 杉葉線香生産は地元今市の主要産業として栄えた。原料のスギ粉生産者も多く、昭和40年頃までは、30基余りの水車が回っていた。今残っているのは浅田さんの他一軒だけだ。明治期に回り出して以来、浅田家の水車は田園風景の空気を柔らかく震わせてきた。杵の動きに連れ、スギの葉が少しずつ擂りつぶされていく。「湿気の少ない時期なら、だいたい一日半で粉になるね。生産量は、10年前に比べると半分くらい」と邦三郎さん。水車と水路を維持管理する製粉の仕事は昔から変わらないが、材料の杉葉が手に入りにくくなった。山主が木を伐らないからだ。かつては地元で供給できたが、今ば遠くまで足を伸ばす。現場では枝払いや枝葉の搬出など、ひと月の半分くらいが山仕事だ。
 昨年14年振りに水車部分を新調した。定期的な交換時期だったが、費用対効果や、産業の先行きを思うと引退も考えた。しかし「水車は里山のシンボル」という仲間の励ましと協力で、できる限り続ける決心を。水車のリズムは、これからも音の風景を奏で続ける。(絵と文・長野亮之介)

浅田邦三郎さん(水車でスギ粉生産/栃木県)

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