山で生きる・森をつなぐ仕事<part.2>
循環する暮らしを目指して
山口啓一さん(林研グループ大江町光林会/山形県)
重い薪割りオノを振り下ろす山口さんの腰は、しっかり据わっている。大江町への移住を決意してから半年間、車で1時間離れた山形市から通った成果だろうか。山仕事や生活の知恵などを地元の方々に教わりながら、新生活への手応えを感じてきた。本格的な生活はこの4月に始まったばかり。日々の薪割りもこれからが本番だ。
山形市ではイベント制作などを行う会社に勤めていた。仕事は面白いが、なにせ忙しい。趣味の釣りに行く時間もろくに取れない日々。「サラリーは、心の穴を埋めるために使っていたようなもんですね」と山口さん。「お金はあっても、心が貧乏だった」と表現する。30歳頃から、都会での消費的な生活をやめ、心も物も循環する暮らしへ移りたいと考える。
休日の田舎巡りが習慣になったある日、大江町の渓森館を偶然見つけた。廃校になった中学校の寮だ。ここを管理していたのが林研グループ「光林会」の一員だった。引き合わせられた鈴木会長は「中山間地の自然は宝の山。環境問題は山から発信すべき」が持論。人や森に対する考え方が一致した上で、半年の見合い(通い)期間を勧められる。「こっちも人柄を見せてもらわないとね」と鈴木会長。
一人娘の優ちゃんが小学校に進学するのを期に、渓森館に居を定めた山口さん。「不便が楽しい」という和江夫人の支えも得て、いずれはここを、大江町の自然を体験するグリーンツーリズム(体験型農村観光)の拠点にしたいと考えている。(絵と文/長野亮之介)