山で生きる・森をつなぐ仕事<part.2>
山菜の採れる山づくり
富永三千敏さん(やまきや旅館主人/新潟県)
ゼンマイ採りに出かける富永さんは、作業着の上に、ゆったりした陣羽織のような着物を着込んだ。ゼンマイブウトウと呼ばれる野良着で、着用すると背中の部分が袋状になる。山菜の採取中、ここに収獲物を一時的に入れながら歩く。
晩春というのにまだ雪が解け残る山中では、コゴミ、ワラビ、ウドやゼンマイ等、春の山幸が、大地のほころびのように湧きだしていた。山に入った途端、三千敏さんの顔が生き生きと輝く。「服が山菜で一杯になったら、籠に移す。山菜採りには欠かせない合理的なデザインだよ」と三千敏さん。
実家が温泉宿を始めたのは、三千敏さんが東京の大学で応用物理学を専攻していた学生時代のことだった。いずれ農林業を継ぐとは思っていたが、温泉経営は全く想定外。否応なく郷里の価値を発信する立場になって、改めて身近な山の価値を再認識する。父の案内で頻繁に山に入り、山仕事や山菜の知識を本格的に学んだのもそれからだ。
7年前、その父が急逝し、予想外に早く二代目を継いだ。料理まで手掛ける三千敏さんは、春の山菜採りが重要な仕事だ。受け継いだ約4町歩の山の一部は、山菜のための山に仕立てたいと思っている。枝を丁寧に打ち、林床に光を入れる等の仕事が必要だ。しかし、忙しくてなかなか十分に手が回らない。ここ二年ほど、常連客を森林ボランティアとして受け入れた。いずれ、林業体験を織り込んだグリーンツーリズムを企画したいとも思っている。 (絵と文・長野亮之介)