山で生きる・森をつなぐ仕事<part.2>
この山の事はみんなわかる
河本和江さん(前田林業作業班/岡山県)
林道から沢筋に沿い、かなり急な踏み痕を登る。途中で何度か息をつくほど歩いて、河本和江さんの現場に立つ。35年生のスギの伐り捨て間伐。狭い作業道に腰を下ろしてチェーンソーの目立てをした河本さんは、早速斜面にとりついた。幹を見、梢を見上げては選木し、次々と刃を入れていく。「チェーンソーを使うようになったのはこの10年くらい。技術はどれも難しいねえ」と言うが、安定感のある動きはきびきびして、後を付いて歩くのが大変だ。
河本さんが、44年間に渡って手入れしてきた「前田林業加茂町森林」の面積は、約293町歩ある。河本さんの嫁いだ集落は、この山と国有林に囲まれた土地柄。昭和30年代当時、多くの村人が前田か、営林署の山仕事で生計を立てていた。河本さんは出産後二年ほどして前田林業に入社。「その頃は女も山仕事をするのが当たり前だったねえ。仲間も大勢いたよ」と和江さん。女性は造林班に振り分けられ、主に植林、下刈りなど保育を担当した。
林業不振につれて仲間が減り、平成になると女性は河本さん1人に。「止める理由もなかったし、山の仕事が体に合ってるんじゃないかな」と河本さん。平成15年に定年退職し、現在の身分は嘱託だが、仕事内容は変わらない。長年の同僚の花谷明春さんに加え、3年前からはIターンの斉藤純一さんを迎え、3人のチームで山仕事を続けている。「この山のどこに何があるかは頭に入っている」という河本さん。「この山からは離れられん気がする」とポツリと言った言葉が耳に残った。
(絵と文・長野亮之介)