山村での暮らし(後)噂の種、消防団
青木広行さん(大分県)
噂の種-逆に自分を宣伝する手助けにもなる
人が少ない田舎のお年寄りは、昼間に畑仕事をして、夜はテレビを見たりご近所で噂話をするなどの過ごし方が一般的です。当然、話はテレビ、週刊誌、新聞など実感のない世界の話です。そこに外から新鮮な話題が隣に引っ越してきたら、これはテレビやラジオなどで得られないリアルな世界の話となります。実感のない世界の話と触れることのできる世界の話では、当然身近な話のほうが面白い。
お年寄りたちは寝るのが早いので、夜9時頃には寝ついてしまいます。何かの拍子に夜中に起きトイレに行くと、窓から隣の家が見える。おや、こんな時間に起きているあの家は、新入りさんだな。どんな生活をしているのかな。今何時かな。村内の人たちと時間の使い方がずいぶん違い、興味深い。みんなに教えてあげよう。新しい知識は披露したくなるので、噂話となってあちらこちらに飛び回る。このように噂が広がるのでしょう。
家の中に入り込んでくるわけではなく、話の種にしているのです。しかも、追い出そうとしているのではなく、ただ新しい人をよく知りたいと思っているだけです。そんな人たちを悪く思っても仕方がありません。逆に自分を宣伝する手助けにもなることでしょう。
見張っている人に、観察する楽しみを増やしてあげるため10時に寝たり、2時に寝たりと生活に変化を出してあげるとよいでしょう。それが面倒ならタイマーで毎日消灯する時間を変えると手間がかかりません。間違っても、明け方5時まで電灯をつけっぱなしにはしないこと。楽しみに観察しているお年寄りを、睡眠不足にしてしまうことがありそうです。
消防団-非常に頼りになる重要な組織だが・・
こちらに来て、消防団に入ってない人が結構いたので、入らない理由をたずねまわり、最終的に消防団に参加しませんでした。
地元の人で消防団に参加しなかった人の意見には、仕事場が離れているので、火事などで昼間に動員がかかっても参加することができない、自宅にいる時や近所の火事や災害の時は、消防団でなくても救助に参加するので消防団員であろうとなかろうと同じである、消防団の訓練が多く、自分の仕事や家庭サービスができないので、などの理由がありました。今になって考えると、彼らはもともと地元の人たちなので、消防団に入らなくても人間関係がなくなる心配はなかったのです。
地区により消防団員になる若者が十分確保できるところは、入団勧誘が強引ではありませんが、若者が少ないところでは人数確保に苦慮しているので、入団勧誘も強力のようです。このような地区に住む若い消防団員は、「一度入ると抜けられないのは、○○○と消防団」と、冗談めかして実情を話してくれたことがあります。もちろん、抜けられないということはありません。
山村暮らしにあこがれて、都会から我が家の隣に引っ越してきた若夫婦がいました。仕事にも生活にも気合が入り、こちらに移住するとすぐ消防団に入団しました。
消防団の訓練は、ホースを川など水源に持って行き、ポンプをつけ、放水したり、延焼を防ぐため木の伐採、洪水対策の土嚢作りなどを考えていたようです。ところが、彼が参加した時期、消防団の訓練は列を乱さない行進がメインでした。ちょうど、何年かに一度回ってくる消防団単位の競技会が迫っていたこともあり、歩き方、手の振り方など細かい動作練習をしていたようです。思い描いていた訓練とあまりに異なるので、しばらくすると彼は訓練に参加しなくなり、俗に言う幽霊団員となってしまいました。
実態を勝手に勘違いしてしまった彼は、勝手に失望してしまったわけで残念でなりません。その後1年もしないうちに、この隣人は去ってしまいました。美しいカントリーライフへの思い込みは禁物です。実際の生活を謙虚に受け入れるよう、思い込みをせず懐を大きく持って、山村に移住していただきたいものです。それが自分にも、もともと住んでいる人にも優しい人間関係を作るということではないでしょうか。
私は、消防団というと、火事の消火がメイン活動という思い込みがありました。中山間地では、火災の消火活動より土砂崩れなどの自然災害復旧、救助などの活動が多いのでしょう。私の住んでいる場所ではその他に、徘徊老人捜索、投身や自動車内のガス自殺など自殺者捜索、回収作業のウエイトが少なくありません。これら作業に駆り出されるときは、当然仕事を休み出動することになります。
山仕事で森林を歩いていたら自殺者を見つけてしまった人もいます。自殺者を見つけると第一発見者ということで約一週間は警察の事情聴取に付き合わなくてはならないようです。その間は仕事もできません。そのため、一度自殺者を見つけて経験のある人は、山中に何日も同じ場所に駐車している他地域ナンバープレートをつけた車を見つけると、嫌な予感がするといってその車には近づきません。
もちろん、自殺しないでいただきたいところですが、消防団員でなくても、自殺するなら他の地域で、という気持ちになります。
このように消防団は、人口の少ない地域では非常に頼りになる重要な組織ではあります。人口減少による団員減少と、酒の機会の多い消防団から若い人が離れ始めているのが現状のようです。内情を知らない私ですが、今までの体制を考え直す時期なのかもしれません。
もともと山村に育ち山村に住んでいる人の中でも、自分の地域の人が好きでないという人もいます。外から山村に移住し、付き合いたくない人がいるから出ていくということでは、地元で我慢している人にとっても面白くないことでしょう。このことは逆に、すぐに近所付き合いを切れる都市部では身勝手な生活をしていると言えるかもしれません。
自分では気にしているつもりでも、相手から見ると全く気にしてないこともあるでしょう。人間関係は気にしすぎてもいけないし、気にしなくてはいけないし、難しいものかもしれませんね。
(この原稿は、全国林業改良普及協会『山で働く人の本~見る・読む 林業の仕事』から抜粋し、再編集しました。)
**『山で働く人の本 見る・読む 林業の仕事』はこんな本です。**