山村での暮らし(中)飲み会、不動産事情、子どもの教育
青木広行さん(大分県)
飲み会-打ち解けた人間関係を築くきっかけの一つ
山村で人脈を作るには、積極的に飲み会に参加することも良い方法の一つです。人数が少ない地区では、同じ趣味の人が集まるのは非常にまれなようで、地区繋がりで集まることが多くなります。
20戸から30戸位で1集落になっている私の地域では、多いところで月1回、私の地区では年3回ほど、祭り、役の交代などの名目で飲み会があります。私の住んでいるこの10年間でかなり弱くなりましたが、基本的に酒を飲む爺さんが多いところです。地元の人たちに自分のことを知らせる良い機会なので、義務だと思い積極的に出席することをお勧めします。
参加者は地元で生まれ育った人がほとんどなので、小学校、中学校の同窓会に似たものがあります。今でも、小学校、中学校の1クラスは10人から20人なので、学校単位でみんなが良く知っている関係です。学校の保護者親睦会などような飲み会に参加すると、知らない学校の同窓会に参加してしまったような印象を受けることがあります。ここで楽しく時間を過ごすためには、それまで培った人間関係の経験が役立つでしょう。
私の住んでいる地区では「たのもし」と呼ばれる、地区に住んでいる有志が集まる集会があります。月1回集まり、毎回参加者1人から1000円とか3000円なりを集金し積み立てるのが目的です。1年分集めたら返金するか、貯まった金でみんなで旅行します。急な出費が必要になった人は、参加した会の集金分を借りることができます。
目的は積み立てなのですが、みんなで集まって飲み会をするのが本来の目的。酒が入れば普段口が動かない人も、話が盛り上がり、祭りの出し物の話し合いから、情報交換まで様々な話が出てきます。私は酒を飲めないので参加していませんでしたが、少しは飲めるということで参加したほうが良かったと反省しています。
消防団、青年団などに参加していない場合、打ち解けた関係を作るために酒が入る関係が一つはあったほうが良いと思います。
不動産事情-役場の人、就職先の会社の人に仲介に入ってもらう
人口減少が続く地区では、知り合いがないと住む場所を探すのは非常に難しいものです。特に、人間関係が全くない場合は、見つけることができないと思ったほうが良いでしょう。
不動産屋に出向き、借家や土地を探すのは、不動産屋自身がその土地出身者でないと非常に難しいものです。知らない人が地区に突然来るのに抵抗感の強い人たちは、地区関係者の推薦のある人以外は、住むことを拒むことがあるからです。
特に家を買うとなると、購入者と隣人も、お互い付き合いにくい人が隣人では、地区の共同生活に支障が予想されます。その地区に代々住まなくてはならない、その地区で生まれ育った人が、新しい隣人に対し用心深くなるのは当然でしょう。その点、嫌だったらすぐに出ていきそうな、地区外の人間は謙虚にならなくてはいけません。
借金の抵当に入っていた家を不動産屋で紹介された人が、家を下見したそうです。家を見ていると、近所の人が出てきていろいろ話しかけてきました。良さそうな家だったので夫婦で買う気になっていました。後日、下見した家の以前の持ち主の親戚がその家を購入することになったと、不動産屋から連絡がありました。知らない人の手に渡るより、勝手知ったる顔見知りが所有した方が、地区の生活がスムースだと思ったのでしょう。または、話しかけた人の印象で、人柄が地区に合わないと判断されたのかもしれません。
実際に不動産を探す場合、役場の人、就職先の会社の人に仲介に入ってもらうといいでしょう。仕事分担の進んでいる市街地と異なり、山村では役場の役割は大きく、生活全般を取り仕切っているといえます。また、住民の役場への信頼も厚く、役場から頼まれれば善処しようという心構えがあります。また、たまたま知り合った地区の人が、実は近所の人たちから鼻つまみ者だったので、地区の人たちからあらぬ誤解を受けるという心配も少なくなります。
知っている人がいても、その地区の習慣や住んでいる人の考え方によっても、下見に注意が必要です。私は、勤めることになった森林組合の人の案内で、候補となる何軒かの家の前を通り過ぎました。内部も良く見たいと希望を伝えると、借りるのが決まってからでないと難しいということでした。家の中を見せることは、その人に家を貸すことが決まったと家主が考えるそうです。
子どもの教育-高校に通い下宿しなければならなくなると
山村の義務教育で良いところは、少人数教育なので、先生の目が届きやすく比較的落ちこぼれができない、いじめると一緒に遊ぶ友人が少なくなるのでいじめが発生しにくい、などでしょうか。
こちらに移住してしばらくは子どもが小さかったので、それほど気にしてなかったのが教育問題。どの程度の山村に住むかにより異なりますが、私の住む地域は合併前は人口約1300人の村だったため、中学校までしかありません。高校のある町まで、バスは1日5本ほど。クラブ活動をすると、最終バスに間に合わないので、町に下宿しなくてはなりません。都市部の仕事でないので収入は低く、それでいて子どもが下宿となると、出費は自分たちの生活費に比べ著しく高くなります。
実際こちらでも、子どもが2人高校に通う場合、高校のある町にアパートを借り、家族ごと引っ越して生活している人もいます。お父さんは町から山中まで、普通とは逆の通勤パターン。全国的にみて、アパート代は給料の差ほどの開きはないので、結果としてこれも家計を直撃。それでも、2人分の下宿代、食費、小遣いを考えると、家族ごと町に出たほうが出費が少なくなります。
完全な車社会になってしまった中山間地では、大人は歩くことが完全に頭からなくなります。100m先にある隣家にもついつい車を使用します。そんな大人たちは、子どもたちが通学のために3~4kmも歩くのを見ていられなくて、車で送迎する人もいます。我が家の場合、小学校はスクールバスがあり、家の前でバスに乗り降りできたので全く歩きませんでした。そんな私の住む地域でも、バスを降りてから4kmくらい坂道を登らなくてはならない地区もあります。そのため、同じ小学校に通っていても、歩く子どもと歩かない子どもの差は大きいです。
また、山村の道は人が歩くことを考えて作られていないので、蛇行する道に歩道がほとんどありません。薄暗い下校時間帯に黒い制服を着た子どもたちが歩く姿が見つけにくい上に、道を人が歩いているとは思わない運転手が多いため、子どもの姿を見つけあわてている運転手を見かけることが珍しくありません。そんな経験があるので、子どもが交通事故にあうのが心配で、車で迎えにいく親が絶えないのも事実です。
中学校では、クラブ活動終了時間が通勤時間帯とほぼ重なるので、勤めが終わった両親が来るまで、子どもたちが校門の前に座り込んで待っているという姿を見るのが珍しくありません。((後)へつづく)
(この原稿は、全国林業改良普及協会『山で働く人の本~見る・読む 林業の仕事』から抜粋し、再編集しました。)
**『山で働く人の本 見る・読む 林業の仕事』はこんな本です。**