森づくり
林業は特別ではない
(有)天竜フォレスター(静岡県天竜市)素材生産業
静岡県天竜市(現・浜松市)の有限会社天竜フォレスターは、架線集材が主流の天竜地域で、集材作業路と林内作業車の作業システムで素材生産を行う。
メンバー8人のうち、6人がIターンというところも会社の特色の一つ。
ご自身も20年前に大学を卒業後、Iターンしたという今井保隆代表にお話を伺った。
(関連記事:今井さんへのインタビュー「仲間と林業会社を設立」)
念願の森林管理の仕事
「2001年から山を任せてくれる地元の方が出てきた。自分たちが計画して、話し合いながら進めています。会社を立ち上げた当初から、森林管理には関心がありました。
ご存じのように山がずたずたに荒れてきた。きちっと管理していかないといけないと思うんです。そうは言ってもお金がかかるものですから、山主さんがお金を出してまで管理していくことは少ないんです。その意味で山全体を回し(利用)ながら山を管理したいなとは思っています」と今井保隆さん。
有限会社天竜フォレスターの営業エリアは、天竜市北部から龍山村南部(いずれも現在は浜松市)。主な顧客は、林家10名と製材所2社。請負で、年間4000~5000m3の素材(丸太)を生産(伐採、搬出)する。現場は間伐が8割。作業は2~3人がチームを組んで進められている。
平成10(1998)年からは、従来の架線集材に変えて、林内作業車(2・5t積)による新たな作業システムを確立している。急峻な地形に適した集材作業路を開設。チェーンソーで伐倒した材は、グラップルとウインチで木寄せして、採材(玉切り)した後、林内作業車に積み込み、搬出している。
間伐材の伐り出しで、一人1日4m3、条件の良いところでは5m3を目標にする。
周囲の人に助けられて
今井さんの林業は、23歳の時、龍山村森林組合の作業班員としてスタートした。
「龍山には青山宏さん(故人)という組合長がいて、若い人たちを集めた。森林組合の独身寮には13人いて、愚痴も言いあえるし、遊びもできる、という環境があった。地元の若い世代とそんなに歳が違わなかった。
最初は、いきなり飛び込んでくると体力的に厳しいですよね。そういうところも含めて仲間には助けられたと思います。その時のメンバーが結構(林業の現場に)残っていますね」
天竜フォレスター自体、龍山村森林組合出身の今井保隆さんら5人と出資協力者が3人の計8人が出資して、平成2(1990)年に立ち上げている。
「龍山村森林組合には指導班があって班長2人に若い人が付いた。分からないとしつこいぐらい聞きました。班長は苦労したと思いますが、常にそういう技術を持った人達の横で仕事がでたことはありがたかった。会社を作った時も、その時のことを思い出しながらやりました。龍山村でお世話になった方々には本当に感謝しています」
林業も普通にやりたい
「うちのメンバーはめいっぱい仕事をしてくれますから、それは助かっています。ただ仕事が厳しい状態なので、上手く仕事が回るよう、私はお客さんとの打ち合わせや営業を主に行っています。自分が現場に行きたいから会社を作ったんですがなかなか現場には行けなくなっちゃいました(笑)」>
天竜フォレスターは、月給制(平均30万円)で基本給12カ月分+1カ月が補償年収とか。期末手当の6割に能力給が反映される。こうした給与面や、待遇面の情報はオープンになっている。
会社の説明会で、「職業規則をいきなり見せてくれた。この部分は言葉を濁してくるところが多いのに」と、入社を決めたメンバーもいる。
このことについて、今井さんは、「普通のことをやっているだけなんです。普通のことが目立つとしたら産業として何かおかしいと思いませんか。私は林業が特別な仕事だとは思っていません。自分がやりたいものがたまたま林業にあっただけ」という。
天竜フォレスターの発足時5人だったメンバーは8人になったが、若い人を定期的に入れて、いつかは自分たちと同じように独立して貰うという会社を立ち上げた頃の目標は、残念ながら実現はしていない。今井さんは農業の新規就農のように林業の現場にもどんどん人が入ってくれればと願う。
「林業が特別だとか、特殊な産業だとかいうと話はそこから進みません。就職活動をする時の選択肢の一つにならないと。一風変わった人間が入ってくるようだけでは、だめなんじゃないですか(笑)」
路網でコストダウン
平成10(1998)年に、最初に導入した機械(グラップルと林内作業車)は、天竜フォレスターが法人会員として参加する「天竜森林の会」が、静岡県の中山間地域農林業整備事業で導入したもの(県と市が事業費の3分の1ずつを補助)。天竜森林の会は、機械の共同利用を目的に設立されている。
「林内作業車の導入は、架線集材の限界とか、労働強度を下げなければいけないとか考えて、平成5(1993)年頃から検討してきました。新しいシステムでイメージしたのは昔の木馬道です。今の木馬は人力でなくてエンジンで動くと。山に負担のかからない狭い道に合った機械を選びました」
新しいシステムでは、下落する材価を考えて、1m3当たり3000円のコストダウンを目指した。
平成2(1990)年に架線集材で間伐した際には、素材生産費(伐木・木寄せ・造材・集材・トラック運賃)は、1m3当たり1万6180円。平成11(1999)年、新しい作業システムでは路網開設費用を入れて、1万3602円となった。目標は達成されている(※)。現在は作業システムがより改良されているそうだ。
※平成11年度「地域材安定供給ネットワーク・モデル事業」(静岡県)
「架線集材が主流のこの地域では、最初の2年間は大変でした。皆さんに作業路を入れさせてくださいというと、トラックが通る道をイメージされて、『山がなくなっちゃうじゃないか』と。今は、このスタイルであちこちでやってきて、目に触れるようになってきたので、理解が得られるようになってきました。ただ材価は考えていた以上に下がってしまった。それでも汲々としながらも、何とかやっていけるのはこのシステムが確立したからです」
その後、天竜フォレスターでは独自にグラップルと林内作業車を2セット導入している。
作業路は枝条で維持する
路線の決定には時間をかけている。どんなに小さな現場でも丸1日。3日間かけることもあるそうだ。
「道を作ることで山をつぶしたら何にもならないですから」
開設費用は1m当たり900円程度。従来の架線を張る経費の範囲内で作業路を入れる。ただし、バックホーなどの配送費が3万円ほどかかるので、生産する材を100m3ほどにまとめる必要がある。
作業路の維持にも工夫がある。
間伐の現場で、次に作業路を使うのが早くても5年後になるような場所では、グラップルで枝条を集めて路面を覆うようにして、作業を終えている。
「枝条で覆うことで雨が路盤に直接当たらない。枝条が腐る頃には路盤も固くなるでしょう。それに無理に作業路を残そうとして、水切りの横断側溝を入れると、山主さんがその横断溝を掃除するために年に何度も山に通わないといけなくなりますから」
作業路の勾配が急なところは、路面上を水が長く走らないように、土側溝(どそっこう)や止水板をつくっている。
皆伐の現場に入れた作業路は、下刈り等の保育に利用される場合には水切りに配慮して残す。必要としない作業路には、やはり枝条を集積するが、これはグラップルによる地拵えでもある。素材生産の作業の中で行われる地拵えによって、手作業の地拵え経費が抑えられると、お客さんにはおおむね好評だという。植林の際には現場までの苗木運搬でも作業路が活かされている。
基本は元気な山をつくること
「人が植えた山が、元気な状態で維持されて、資源が循環していく林ができれば良い。それが基本」と今井さん。
その言葉を背景に、天竜フォレスターの様々な作業からは、森林所有者に少しでもお金が残るような心配りが感じられる。
今井さんは肩に力を入れず、淡々と話す。
「山の現状を何とかしたい。山は自分のものではないんだけど、自分たちは山で食わせて貰っている、それに対する責任は当然あるでしょうから。山が許してくれる範囲で施業を決めていきたいなとは思います」
(全国林業改良普及協会 月刊『林業新知識』2002年10月号より。記事データは掲載当時のものです。ただし、雇用データのみ2004年12月のものです。)
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