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インタビュー「先人に学ぶ」

見てくれではなく実質

柴田正義さん(岡山県大佐町)


 柴田正義さん(62歳/岡山県大佐町)は12年前から林業専業。「私のは横着林業」と謙遜されるが、実は「見てくれよりも実質優先」の林業を実践している。ご夫婦で山に通う柴田さんを訪ねた。

■あなたの山の年輪幅は?
「ここが本当にお金になる部分」と柴田正義さん(62歳)は、伐根の年輪を親指と人差し指で指し示した。「芯の部分がお金になるんじゃない。この12年で僕は間伐でどんどん価値を上げている。皆さんは山では食えないと言って、狭い年輪幅のままにされているのではないですか」。
  この伐根は取材の参考になるようにと、柴田さんの山の平均的なヒノキを伐採して出荷した跡。市場での売り上げ明細表を見せていただくと、ヒノキ4・167立方で21万8219円。平均単価は1立方当たり5万2000円。この径級の市場平均を2万円以上うわ回る。
 所有林32haのうちスギ・ヒノキの人工林は26ha(ヒノキ5割強)。ほとんどが正義さんが建具業のかたわら植え、育てて来た。
 手入れはさぞかし、まめに?
「そんなことはしないんです。僕は『横着林業』というんですけど、ヒノキは枝打ちも3m50から4mまでは元気を出して打ちますけど、そこから先はチャンスがなければ枝打ちしない。スギは出来るものだけ枝打ちしている」。枝打ちは、幹がビール瓶の太さになったらはじめ、サイダー瓶の太さまで打ち上げる。枝打ち後3年以内に傷跡が覆われるように、間伐で太らせる。ボタン材(変色や腐朽)の発生を防ぐためだ。また、枝打ちはノコを使っている。

■お金になる木だけ伐る
 間伐は所有林を3年で一巡りする。「お金にならないものは一本も伐らない。末口が16〜18㎝(柱適寸)の木になったときに収穫します。16㎝になれば、安い安いとは言っても買ってはもらえます」。
 お金にならない木を伐らないだけに、育っている木も太さがまちまち。人工林内に入り込んだ広葉樹は残され、ケヤキやクリの大木がぽつんと残るヒノキ林もある。
「下の木は大きくなりませんが、山の木だから1年や10年の話じゃないからいいんじゃないですか。気の長ーい話で、私らがお金にする木じゃないですから、子どもや孫が使うわけでしょう」と、山づくりでも正義さんのパートナーとなる全子夫人は明るく話す。
「指導を受けていたらこんな山にはならないでしょう」と全子さんは笑うが、多様な種類の木が多層に成育する、言い換えれば環境林が育っているようにも感じる。
 さて、冒頭の伐根の親指の辺りの年輪幅が、狭く詰まっているのに気づかれた方もいらっしゃると思う。手入れの遅れを示すこのサインが林業専業へと決意させる。林業で生きることは、正義さんが10代で志したことでもあった。
「山には15歳の時から関心を持っていて、植えましたから。僕は三男だが家に残らないといけなかった。親父の代は田圃をつくって、牛を飼って、山で炭を焼いて売っていた。このままでは苦労から抜けきらないと思い、方向転換して、山に木を植えてしまった」
 暮らしをたてていく仕事として建具業を選んだが、山への意気込みは、柴田さんの人工林の林齢構成に表れている。3、4、5、6、7、8齢級が2・6haずつ、9齢級、10齢級以上が5・2haずつ。
 下刈りや枝打ちに手が回らない時は雇用した。どうしてもやらなければならない下刈りは、アサマ仕事(朝食までの間の仕事)で毎年2haほどやった時期もあったそうだ。柴田さんの「横着林業」は、限られた時間の中で要点を押さえて実践されてきた。

■元建具業の視点を生かして
「ここの場所では、この木を最後まで残します」と、正義さんが示したのは曲がり木。
「枝打ちさえしてあったら、曲がっている木でもいい。建具だったら1mの長さで目が揃っていれば価値がある。極端に言えば30㎝でもいい」。建具職人だった正義さんの視点である。木目が良く、アテのない「木味のいい」曲がり木は、建具業時代も市場で強気で買ったという。人脈もある。
「僕の得意は、建具業の経験から棟梁を50人は知っていること。山で面白い曲がり方をしている木があったら、飾り柱にどうですかと棟梁に持っていく。曲がっている柱は、まっすぐなモノよりも高く売れると思う」。また、スギを磨いて床柱や桁丸太として工務店への直販も行っている。

■間伐の収穫は厳密に
 収穫は、末口が16〜18㎝になったときに行うのだが、立木での目安は、6mの通し柱の場合には目通り(目の高さでの太さ)22〜25㎝。3mの管柱の場合には目通り20〜22㎝になる。正義さんはいつもメジャーを持ち歩いている。
 年輪幅は3㎜が目標。1年で6㎜、3年で約2㎝太くなる。末口14㎝ものは3年待って16㎝で伐る。曲がりがある木はさらに3年待って18㎝で伐っている。
 造材の時の尺棒は、まっすぐな角材を使う。竹を尺棒にすると押さえた時にしなりが生まれて、直材かどうかが分かりにくくなるからだ。「木取り(造材)の上手い下手で、1日伐ったら1万円は違ってくるでしょう」と正義さん。
 直材が採れるように採材するが、根曲がりの対応で余尺として曲がりを付けて採材することがあるが、これは家の「隅木」として曲がり木をほしがる人がいるからだ。
 2面無節以上の価値がでる丸太には、刻印「カクシ」を打って市場に出品する。市場での評価は高く、市場がある隣町では、面識のない人から山づくりの方法について質問を受けることもあるそうだ。
「分かることは隠さずに教えています。私は、いま何とか頑張っているが、大勢そういう人がいないと地域の林業が伸びていきませんから」。将来を考えると、地域に優秀なフォレスターを育てていくことの必要性を痛感するという。

■伐出は1日1立方まで
「ちょっと伐ったらお金になるように、もう少し歳を取ったらちょっと木を伐ってもらったらお金になるように道を付けている。それが理想でもあるんですけど。それが私たちの厚生年金の替わりでもあります(笑)」と全子さん。
 間伐するところに、林内作業車が通ることが出来る道を入れてきた。今では林内作業車のウィンチ(50mのワイヤー)で木寄せ出来るように、全山に作業路が張り巡らされている。
 林内作業車の集材では、体調の良い方がワイヤーを持つ側だとか。「最近は私の方がワイヤーを持つことが多いかな」と全子さん。
 また、近隣の所有者が柴田さんの山を通る道を入れたいという場合には正義さんはどんどん通ってもらっている。「労力なしに自分が使える道が出来る。こんなにいいことはないでしょう」。
 伐出は年間100日。1日1立方までと決めている。ご夫妻の山仕事は主に午前中の仕事になる。「『人』が『木』のそばにいると、『休』の字になるように、休まなきゃ。横着しないと(笑)」と正義さん。「歳を取ったらみんなの半分働いて暮らせるようにしたいと決めたのは、15歳のときかもしれないな」。

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