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事業アイディア

木材利用

立木価格は木の二酸化炭素固定量で算出

"sound wood(s)"加古川流域森林資源活用検討協議会(兵庫県丹波市)

木の二酸化炭素固定量で立木価格を設定し、さらに素材生産業者、製材業者と連携して伐採費、製材費を明確にして地域材を売り込む立木販売システム『sound wood(s)』。
その特徴やねらいについて兵庫県西脇森林整備事務所の土肥恭三さんに紹介していただく。

目次

森林で住まいの材料を探す建主たち

「吹抜けのリビングルームの梁には、この立木が丁度いいんじゃないですか。」
 「すごいなあ、こんな大きな木を切るんだ。せっかく大きく育ったのに、切ってもいいんですか?」
 「家づくりに使うために、50年のあいだ丁寧に育ててきたんです。どうぞ使ってください。」

 立木販売による択伐で適度な立木密度に近づいた森林は、木漏れ日が地面に降り注ぎ、遠くに紅葉で色づいた山肌を臨むことができる。
 晩秋の柔らかい日差し。遠くにせせらぎの音。住まいの建主と建築家は、夢ふくらむマイホームの図面を片手に森林所有者と木材コーディネーターの話に耳を傾けている。
 家づくりの材料調達に建築家を伴って森林に出かけた建主は、森林や立木の非日常的なスケールを前に、これから手に入れる住まいのイメージを重ね合わせる。森林に出向くことが、住まいづくりの始まりである。

これから建てる家の木材を調達しに兵庫県加美町丹波地区の森林を訪れた家族たちこれから建てる家の木材を調達しに兵庫県加美町丹波地区の森林を訪れた家族たち。
自ら材料選びに関わることで家を建てる実感と満足を得ることができる。
お気に入りの材を自ら選ぶことで、こだわりの家づくりにつながる。

    

裏山からの家づくり

 兵庫県多可郡加美町丹治の地区有林で住宅用木材を立木で分譲し始めて2年が経過した。「知っていますか?あなたの家の生まれ故郷」と問いかけ、5年間で約800本(住宅10棟分相当)のスギ、ヒノキを立木のまま分譲販売する試み『かみ・裏山からの家づくり』である。
 2年間の販売実績は、9棟の住宅部材に立木524本を提供することができ、215万円の収入があった。また2004(平成16)年4月からこの立木販売制度の趣旨に賛同した3人の森林所有者が新たに参加し、商品である立木のバリエーションが増えた。そして『紙・裏山からの家づくり』からさらなる汎用性のあるシステムを構築するため、名称も『sound wood(s)』へと変わった。

森と住み手の健全さを目指した立木販売システム『sound wood(s)』

 Soundといえば「音」のことに受け取られることが多いが、Soundには「健全な」という意味が込められている。sound wood(s)は森の健全化を目指すと同時に、木造住宅で健全な住まいを作り出し、そこに人が自然とともに豊かに暮らせるメッセージを込めている。
 またSoundをsustainable(継続性、持続性)、stream(流域、素材の流れ)、signature(署名のついている明確な責任)、stock(二酸化炭素の蓄積)、safety(素材、構造の安全性)の5つのSで始まるキーワードの総称として扱っている。

 このシステムを具体的に消費者に提案するためパンフレットを作成した。これは産地に眠る資源を住み手(消費者)に直接届けるためのカタログのようなものである。パンフレットの中身は
 (1)sound wood(s)のしくみ、
 (2)森林所有者、(
 (3)選木・伐採・搬出運搬、
 (4)製材・乾燥・加工・建築について
 それぞれカード式で構成され、消費者がシステムの内容を一目瞭然に把握できるようにまとめられている。

 住み手(消費者)はパンフレットを手に取り、「森」に住宅の夢を託せる。また、建築家や工務店は木造住宅に興味を持つ住み手や、木造住宅の認識があまりない住み手に対して積極的な提案ができることを目的に作成している。また、建築と森林整備の関係を明らかな概念として定着させ、豊かな生活のイメージを作り出すことができるようにしている。

『sound wood(s)』システムを具体的に消費者に提案するためのパンフレット『sound wood(s)』システムを具体的に消費者に提案するためのパンフレット

パンフレット表紙パンフレット表紙

森林所有者の顔が見える仕掛けが消費者の安心感につながる森林所有者の顔が見える仕掛けが消費者の安心感につながる

明確な立木・伐採費が消費者に安心と環境貢献意識を育む

 『かみ・裏山からの家づくり』から『sound wood(s)』まで、立木販売システムにおいて立木価格の基礎になっているのは、二酸化炭素である。立木を二酸化炭素回収装置と考え、スギやヒノキが固定した二酸化炭素の量に、火力発電所における二酸化炭素回収コスト(12,704円/CO2-t)を乗じたもの(日本学術会議答申による代替法)を、立木価格に反映した。
 その結果、スギの価格は7,358円/m3、ヒノキは9,291円/m3で、市場に左右されない固定価格(5年間)とした。価格の基準が環境貢献指数とも言える二酸化炭素吸着量で示されたことによって、消費者が「木材を使うことが環境に貢献する消費行動である」ことを意識しやすくなっている。

立木の伐採費は10本までの伐採の場合3,700円、11本以上の場合は2,700円である。
 『かみ・裏山からの家づくり』のシステムは様々な購入者の形態に対応する事を考慮した。
  ①立木購入だけをして伐採、製材、建築は、他業者に依頼する場合。
  ②立木購入をして伐採を加美町の製材業者に依頼し、製材、建築は他業者に依頼する場合。
  ③立木購入をして伐採、製材を加美町の業者に依頼する。建築は他業者に依頼する場合。
  ④立木購入をして伐採から製材、建築までを加美町内の業者に依頼する場合。
 このように、ルートを特定せず様々な購入者に対応することができる。特定しているのは森林だけである。

販売エリア販売エリアとなっている森林では、
販売対象となる立木にテープが巻かれている。
立木の定価が明確に示されることにより、
山主にも消費者にもわかりやすい地域材の流通が可能になる。

伐採費には伐採、玉切りおよび加美町内製材工場までの輸送費まで含まれている伐採費には伐採、玉切りおよび加美町内製材工場までの輸送費まで含まれている。
これは連携している地元の素材生産業者にまかせることが前提になる。
町外へ原木を輸送する場合は別途料金が必要だ。

構造見学会風景構造見学会風景。
芯持ちの地域材を使うことの長所・短所も理解してもらうことも欠かせない。

新しいことにトライし続けることが重要

 立木価格算定の基礎を、木材の二酸化炭素の蓄積量としたことがユニークな試みとしてマスメディアに取りあげられ、一定の認知と林業関係者や様々な分野からシステムについての評価を得ることができた。森林所有者も立木販売で得た収入を林業機械の購入や新たな基盤整備、森林整備に投資をしている。経済活動に足を踏み入れたことが計画的かつ自主的な森林整備へ結びつこうとしている。
 しかし、解決すべき課題も山積みしている。そのひとつが、住宅の設計図面を見て山の立木を選別し、効率よく製材できるようにアドバイスできる人材、「木材コーディネーター」の育成である。これまでも、販売に数多く関わり、消費者(住み手、建築家、工務店など)と山の立木を結びつけてきた。

        

 この立木販売システムが、一流域内の住宅建設需要において多くのシェアを占めることは考えられないが、納得のいく形で消費者に届ける方法があってもいいと考える。現在の一般的な市場から見ると今回の森林所有者の行動はあまりにも愚直すぎるかもしれないが、この「愚直さ」が消費者にとって「安心」「安全」につながり、家を建てた「実感」と「満足」につながっている。今後、市場での安易な価格競争を避けるためにも関係者が知恵を出し合い、充実したPR戦略を実施するとともに、新しいことにトライし続けることが重要である。地域の材が毎年コンスタントに売れ、社会にシステムが定着するためには、これからが正念場である。

(全国林業改良普及協会 月刊『現代林業』2005年2月号より。記事データは掲載当時のものです。)
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