特用林産利用(きのこ・山菜など)
自然のものをそのまま届けたい
シイタケ生産業 自然届け隊(熊本県菊池市)
平成14年度全国林業グループコンクール(主催/本会・全国林業研究グループ)で、農林水産大臣賞を受賞した「自然届け隊」。
平成11年に農林家の緒方重子さん・山野由紀さん・木村美香さんの3名で結成したグループだ。
「本物の美味しさを知ったシイタケが大好きな人たちが広がっていけば」と、原木シイタケ生産をする傍ら、「売る」ことへ積極的に関わり、消費者から生産者の顔が見える関係をつくっている。
「もうシイタケはダメバイ」の声
「活動歴も浅く、このような小さなグループがコンクールに参加してもよいか迷いましたが、日常生活を通して行ってきたことをより多くの方々に聞いていただき、今後の仲間づくりにつなげたいとの思いで参加しました。受賞は本当に嬉しいです」と話すのは、隊長の緒方重子さん。
自然届け隊の3人が住む竜門地域は、菊池市の中で最も山深い所。古くからシイタケ栽培が盛んで、竜門林業研究グループを中心に森林造成でも高く評価されている地域だ。
「林業とシイタケ栽培の複合経営を行う私たちにとって、シイタケは重要な現金収入です。活動を始めた平成11年頃は、価格が最低で家計の状態は深刻でした」(緒方さん)。
その頃、生産者の集まりで聞く言葉は、「もうシイタケはダメバイ」「つまらん」という嘆きや、自分たちが携わっているシイタケを卑下する自信のない声ばかりだった。「生産者自らがあきらめ、そういう言葉を口に出していては、良くなることも良くなるはずがない」―。3人はそれぞれに感じていた。
自然のものを自然のまま届けたい
3人は、家が近く気心の知れた親しい間柄。
「嫁ぐ前はシイタケは全然知らなかった。結婚前、実家に近所の人が来て『あんたにはできん』って説得しにきたもの」。そう豪快に笑うのは山野由紀さん。生産に携わる中で、価格の安さにずっと疑問を抱いていた。
木村美香さんは「何ができるか考えた時に、女性である私たちは、消費者に一番近い生産者なんだということに気づいた」と話す。
届け隊の結成のきっかけは、消費者や流通業者を集まりを3人が企画したこと。林研の女性部などそれぞれの立場で参加してきたグループ活動を通じて出会った人を竜門へ呼び、シイタケ生産現場の現状や思いを伝えた。
消費者からは「新鮮で、安全で、作り手の見える商品を食べたい」「シイタケが肥料や消毒もいらない自然の産物であることを伝えてほしい」といった声を聞くことができた。流通業者からは「品質や出荷量の面で、商品の信頼性や積極的なPR」を求められた。
これらの声に応える商品をつくりたい。自然のものをそのまま届けたい。多くの人に本物のシイタケの良さを知ってほしい―。そんな強い思いから、「自然届け隊」を結成した。
安全性と新鮮さを自信をもって伝える
結成後すぐ、出荷した翌朝の市場へ行った。竜門で市場の集荷車に載せてから先の流通を知らなかったからだ。並んでいたのは、ひだが黒く変色したものだった。「『こんなんあたしが出したの?昨日はあんなにきれいだったのに』ってショックだった」(山野さん)。恥ずかしくて、市場の人に顔向けできなかった。
信用第一だと思った。品質や出荷量に対して信用を得なければ、何も伝えられない」(緒方さん)。そのために、自分たち生産者の顔を見せることが必要という結論に。苦情を受け付けるつもりで、早速、個人名・連絡先・顔写真の入った届け隊共通シールを作った。
届け隊のシイタケは、それぞれの家庭で収穫しパック詰めされ、集荷されたものが、熊本市内の市場で同じ場所に並ぶシステム。届け隊共通シールが付いているので、別々に出荷しても市場で一緒にまとめられる。以前は、他の生産者と同じシールを貼っていたので、誰が出したものかわからなかった。商品に個人名の入ったシールを貼ることで、他の生産者との差別化をはかると同時に、市場や消費者へ商品の信頼性をPRしている。「市場への責任も当然ありますが、『恥ずかしいものは出せない』という、自分たちに対するプレッシャーにもなっています」(山野さん)。
生産額も伸び、平均単価は㎏あたり約20円上がり、販売額は活動当初に比べ2倍以上もアップした。継続的に一定量を出荷することで、市場の信用も得られるようになった。
消費者の声をききながら、本物をPR
「利益にはつながらないが、消費者との直接のやりとりから生の声を聞いて、原木シイタケの美味しさを知ってほしい」と、大消費地での消費宣伝活動も積極的に行っている。
「大阪の『森林の市』では、『年一回、熊本のシイタケを食べるのを楽しみにしている』という常連さんも増えました」と、木村さんは満面の笑みを浮かべる。「本当は採りたてのプリンプリンしたものを食べて欲しいけど」と山野さん。大阪や京都のスーパーで試食販売も行った。「売り子は緊張します。料理に対する関心も高く、主婦の厳しい目で自分たちの商品が評価されます」と緒方さん。
山野さんがラジオ局へリクエストする時のラジオネームは「シイタケなば子」。「ラジオからシイタケの話を流して、夕飯で『今日はシイタケ使おっかなー』って思ってくれたら、占めたもの」。「由紀さんのこういう発想がすごい。林業以外の世界を知っているから自由な見方が出来るのかもしれませんね」と木村さん。シイタケ生産者として出来ることは行っていきたい。3人のモットーの一つだ。
私たちはシイタケ農家の女性です
3人が口を揃えていうのは、「私たちは本当に人に恵まれている。でも何と言っても、一番の協力者はやっぱり家族」ということ。
傍らで、「温かく見守らせてもらってます。3人ともいつも笑って話している。こういう前向きな母ちゃんパワーがあるから夫婦一心同体でやっていけるんですよ。息子夫婦が頑張れば親も喜ぶし加勢してくれる。家族が団結して、それぞれの持ち場でやれることが最高じゃないかな」と緒方さんの夫の啓一さん。
活動を通じて、3人が得たもの―。それは、「思い続けそれに向かって進めば夢はかなうという自信」だ。周りでは、シールに工夫する生産者が増えたり、グループ化の動きなど良い意味で競争意識が芽生えてきている。
「私たちの活動は決して特別のことではありません。『ああすればいい』という思いを『やるか、やらないか』」だと思う(緒方さん)。経営的に一番大変な時期に、隊を立ち上げ軌道に乗せたことも自信に。だから、活動内容やノウハウはオープンにしている。「同じような生産者の小さなグループが『やる』ことで、地域産業の一歩、原木シイタケ全体の前進につながればいい」、そう考える。
そして、「都会の消費者と直接触れ合う中で、いかに自分たちが豊かな自然の中に住んでいるかを知らされた」とも。「スギ山の中の小さな棚田に吹く風、水面に青空を映す田んぼ、蛙や鳥の声・・・全てが私たちにはなくてはならない生活の色。生活の便利さより、手のかかる不便な田舎の豊かさを誇りに思うようになりました」。
活動で学んだことや消費者と直接やりとりする中で得られた確かな手応えが、時として嫌に感じられる肉体労働を癒し、そこに価値を見いだすことが出来るようになった。
「私たちは一歩を踏み出したばかり。やりたいことが目の前に広がっている。『私たちはシイタケ農家の女性』だと胸を張って、楽しく明るく働いていきたい」と張り切る3人の情熱的な瞳と笑顔が印象に残る。
(全国林業改良普及協会 月刊『林業新知識』2003年6月号より。記事データは掲載当時のものです。)
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熊本県菊池地域振興局農林部林務課 電話:0968-25-4111(代表)