• 山村型起業解説
  • 事業アイディア
  • インタビュー「先人に学ぶ」
  • 農山村の背景情報
  • お役立ち情報・技術
 

トップページ > 農山村の背景情報 > 山村での暮らし

農山村の背景情報

山村での暮らし(前)心構え、ご近所づきあい

青木広行さん(大分県)

山村暮らしの心構え-謙虚にその地区の生活を教えていただくこと

 さて、まず心したいのは、どんなに頑張っても、昔から住んでいる地元民にはなれないということです。これは、山村に溶け込めないという意味ではないので、勘違いしないでください。いくら懸命にその地区の人たちに行動を合わせようとしても、限度があるということです。それでも理解する努力、一緒に行動する必要があるのはいうまでもありません。

 山村暮らしの心構えはなんですかとたずねられても、残念ながらこれだというアドバイスがありません。あえて言えば、謙虚にその地区その地区の、生活を教えていただくしかないでしょう。

 ここで町村といわずに、地区と表現しているところに注意してください。これは、同じ町村内でも地区の成り立ちの違い、住んでいる人たちの性格により、大きく事情が異なるので、ここでは町村といわず地区としています。自分の住んでいる地区の例を、他の地区に移住した人たちに話すと、全く同じでないにしろ「そうなんだよなー」と理解できてしまうところがあります。根っこに共通部分があるのでしょう。それだけではわかりにくいので、具体的な例から、感じをつかんでいただきたいと思います。

 例えば、サッカーのワールドカップでカメルーンのキャンプ地として有名になった大分県中津江村(現・日田市)には、鯛生という地区があります。第二次世界大戦以前は東洋一といわれる金山があった場所で、全国から人が集まり、この地区だけで約5000人ほど住んでいたそうです。50年以上たった今でも、この地区の人たちに畑を持っていない人が少なくなく、人々の考え方もどちらかというと都市部の人に近いものを感じます。

 鯛生地区から都市(日田市街地)に近い地区では、昔ながらの中山間地生活が続き、人々の考え方もどちらかというと、山村らしい思考方法をしているようです。

 人口が少ない分、住んでいる人の性格がそのまま地区の人々の考え方に大きく影響を与えているので、あの町の人はこうだとか、あの村の人はこうだと言えません。

ご近所づきあい-ライフラインは隣近所の助け合いが支える

 人間関係に疲れたので山村に住みたいと、希望を語っている中高年がテレビに出演するのを見ることがあります。人の住んでない地域ならともかく、人間の住んでいる山村では人付き合いをしないと生活できないと断言します。

 台風、地滑り、倒木、洪水などの災害時、道を塞がれたり、壊された家を一番に助けてくれるのは、遠くから来る救助隊ではなく隣人たちです。チェーンソーや電動丸のこ、小型発電機を持っている人は珍しくなく、ひょっととすると小型バックホーまで持っていることがあるので、災害時には心強いものです。
 基本的に、人口が少ない上に自然災害の被害が大きいのが山村の特徴です。台風などに襲われる、道路が流される、停電になる、電話が不通になるなど珍しいことではありません。それなりの機関に連絡しても、生死に関係ある事故が優先処理となります。公的機関が復旧に来る前に、自分たちで自分たちの地区の処理をするのが基本になります。隣近所の人を好きでなくても、災害時には隣近所の助け合いが必要になります。人間関係を切るような付き合いをすると、山村で生活することはできなくなるか、または非常に窮屈なものになるでしょう。

 また、地区の道路清掃、共同アンテナなどの管理も専門業者まかせでなく、地区の住民の仕事です。私の住んでいる地区も、日時を決め年2回、地区にある約2kmの道の草刈と側溝掃除をしています。また、地区公民館の掃除も交代で年1回。年1回の地区班長交代慰労会。地区の花見が年1回。地区にある地蔵様のお祭りが秋に1回。地区の行事としてはこれだけですが、他の地区の人たちからは少ないので羨ましがられています。

 特に道路清掃は地区の人たちにも大変な作業なので、参加しない場合は手間賃として1万円支払わなくてはなりません。これら行事は、地区外から移り住んだ者としては、義務として考えるより自分を知ってもらうため、住んでいる地区を知るため、積極的に出席することをお勧めします。一緒に軽い労働をすることで、親近感が沸くものです。
 地区によっては、地区への新規編入者に優先的に地区班長を任せるところもあります。この制度の良い点は、新入りを班長にすることで、各家への自己紹介と各家のことを新入りに紹介できるので、新入りが早く地区に溶け込むことができるようです。また、班長にしたからといっても、すべてが完璧にできるわけではないので、近所の人たちに手順を教えてもらうなど話す機会も増え、さらに地区に溶け込むことが容易になると考えられます。

 このような利点を考えると、移り住んだら自ら地区長として名乗り出ても良いかもしれません。ただし、仕方なく何年も地区長をしているところがあり、このような地区で地区長になると、地区長を辞められなくなる恐れもあります。((中)へつづく)

(この原稿は、全国林業改良普及協会『山で働く人の本~見る・読む 林業の仕事』から抜粋し、再編集しました。)
**『山で働く人の本 見る・読む 林業の仕事』はこんな本です。**

▲pagetop