山で生きる・森をつなぐ仕事<part.1>
木の精を感じる森
若杉利助さん(農林業/新潟県)
若杉さんの森には、題名と通し番号が付けられたスギが、あちこちに見受けられる。「誕生」「学位」「結婚」「五輪」、「追悼」や「市制」も。それらの木を巡るように簡単な歩き道が切ってあり、手書きの地図と台帳を見れば、現在地はもちろん、どんな素性の木か、どんな思いが込められているかまで、一目瞭然に分かる。「19番の誕生・・・これは外孫だ。今は長野県に住んでるね。10番は昭和32年に植えた。これは姪だね。大きく育ったのう」。頁を繰りながら、木に託した記憶を辿る利助さん。
昭和25年の長男誕生がきっかけだった。弟の大学合格も重なり、思い出を形に残すために植樹を始めた。当時27歳。以来、記念すべき出来事があると、一度に100〜200本程のスギを植える。間伐をしながら素性の良い木を選んで記念樹とし、看板を設置した。名を付けることで個性が際だち、手入れも疎かには出来ない。どこへ行くにも一緒という三枝夫人と共に、山作りに取り組んだ。昭和38年の豪雪で大被害を被った時には、さすがに止めたくなったが、50年後に完成する記念林公園の夢が復興の励みになった。
半世紀が過ぎ、若杉さんの山に立つ記念樹は44本。第1番の幹回りは170㎝を越えた。平成6年に「スマイルの森」と命名。「この森には、木の精を感じる。誰でも自由に入って、元気になって欲しいのう」。最近は地元小学校の記念植樹にも場所を提供。この山が栃尾の住人、皆の思い出の森になればと願っている。
(絵と文/長野亮之介)