山で生きる・森をつなぐ仕事<part.1>
原木シイタケにこだわる
有限会社「しいたけブラザーズ」
(横田尚人さん・千洋さん・泰弘さん/岐阜県)
一山25本前後のホダ木が三角柱を成すように積み重ねられている。顔を出した小さなシイタケを軽く握ると、はじき返すような弾力が。「低い温度でゆっくり育つと肉厚になる。温度の管理には気を遣います」と尚人さん。一山の上下にも温度差があるので、毎日のように積み替える。1日に2000〜3000本、動かすことも。
「足跡を残した分だけ良いものが出来ますね」というのは隣町にある発生棟を主に管理している千洋さん。盛り上がった腕の筋肉が、日々の労働量を証明する。三男の泰弘さんが、収穫を終えたホダ木を休養舎に運び入れた。「ここには害虫を食べるクモやカエル、ヘビまでいる。生き物が棲みやすい環境が、シイタケにもいいのかな」と尚人さん。
高校卒業後、兄弟それぞれ一旦は別の道に進んだ。父親が体調を崩したのをきっかけに、最初に家業に就いたのは千洋さん。農業研修先のアメリカで体験した工業的な作物生産現場を反面教師に、原木シイタケに志を見い出す。次いで、大学でキノコを研究し、農協勤務を経て尚人さんが帰郷。5年ほどは2人で販路開拓に奔走した。その姿に感動し、就農の機会をうかがっていた泰弘さんが昨年晴れて脱サラ。正式に有限会社「しいたけブラザーズ」を発足した。 年間に扱う約4万5000本の原木は東北地方から購入しているが、将来は少しでも自給できる原木の森を地元につくりたい。そのためにドングリを植えて2年目になる。「原木シイタケは競争力が弱いと言われるけど、苦しいときほどチャンス。品質には絶対の自信があるから頑張れる」と、価値観を共有した兄弟の絆は堅い。(絵と文/長野亮之介)