山で生きる・森をつなぐ仕事<part.1>
川上と川下をつなげたい
中田無双さん(森林組合/山梨県)
上野原小学校の学校林に設けられた周遊路を、約60名の一団と共に歩く。「南に富士山。東南に神奈川県の最高峰、蛭ガ岳が見えます」。見晴らしの良い尾根で、中田さんの説明に歓声が上がる。参加者の多くが神奈川県民。上野原市内の山は神奈川県の「水源の森」にあたる。この日は、上下流域住民の交流イベントが行われていた。山歩きのあとには体験林業教室が控えている。主催者の「桂川・相模川流域協議会」のメンバーである北都留森林組合が企画。今回のイベントの推進役が、Iターンして4年目の中田無双さんだ。
大手書店の営業勤務が長い。地方を転勤しつつ、新規事業の開拓に燃えていた。家庭の事情で一時的に退職。その間に参加した全森連主催の森林・林業ガイドスクールに手応えを感じる。大量に紙を扱う書店という仕事柄、もともと環境問題への関心は高い。「やる以上はスタンドからの応援ではなく、フィールドで」という体育会系の習性も追い風に、森林組合への再就職を選択した。
北都留森林組合の管内には、前述した神奈川のほか、東京の水源林も含まれる。併せて2000万人の「流域」人口を抱える。この特色を組合の経営に繋げるのが課題。「循環型の森を作るには、経済の循環が必須。補助金に頼らない独自企画を」が持論。体験林業のほか、企業と連携した森づくりも試みている。住んでいる小菅村では、新たにペレット事業を立ち上げた。森林組合を基盤に、山に新規事業を開拓する中田さんの手腕にますます期待がかかる。(絵と文/長野亮之介)