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インタビュー「先人に学ぶ」

夫婦二人で

柿崎冨栄さん・ヤス子さん(山形県真室川町)

 山村で生きる喜びを味わいながら、協力し合い暮らす柿崎富榮さん(67)・ヤス子さん(63)。山形県真室川町にご夫妻を訪ねた。

■自然を愛して
「自然を愛して、自然を学び、自然を高度に利用して、その恩恵を受けることが基本です」
 柿崎富榮さん(67)・ヤス子さん(63)夫妻は、百年の大計で山づくりを進めながら、稲作と他の作物を組み合わせて生産費と労働投入量、所得を考慮しながら農林業経営を組み立ててきた。1988年の全国林業経営推奨行事では農林水産大臣賞にも選ばれている。
 現在稲作はやめ、タラノメ水耕栽培とマイタケ野外床栽培を夫妻がそれぞれ担当する。「米が今の状況になったのだから、タラノメも過剰にならない補償はない」と、次に向けてワラビとネマガリタケの林床栽培も試験中である。
 柿崎さん夫妻のライフワークはボランティア活動である。「周囲の困っている人たちに対して思いやり深かった実家の父のような大人になりたい」とヤス子さんは思い続けてきた。多少余裕ができた今、施設の子どもたちや身障者を自宅に招いている。交流の舞台は自宅の裏山に富榮さんが整備している「百樹の森」である。ボランティア活動では、発見や感動の連続であるという。
 山村の良い面に光を当てて暮らしてきた柿崎さん夫妻。10年間で半分になったという27戸の集落に夫妻を訪ねる人は、年間1000人にもなる。

■地杉を植え、雪起こしはせず
 柿崎さんの山林はおよそ50ha。9割がスギの人工林である。この辺りの積雪は少ない年でも1m50㎝になるそうだが、柿崎さん夫妻はこれまで1本も雪起こしせずに立派な林を育ててきた。
「最初に山の同じ傾斜で20本くらいで雪起こしをする、しないの比較をしてみたら、結果は同じだった」と富榮さん。
「春先に山に行けば、だれでも雪起こしをしたくなる。我慢して7月の上旬頃、下刈りにいってみると90%以上が起きている。そのときに起きていないものは、カマで切れるうちに除伐する。起きなかったのなら、雪国にぴったりした品種ではないと思う」
 柿崎家では、所有林の天然杉の種子からの苗木を植えてきた。吉野杉も一部植えたが経過が思わしくなく改植したそうだ。
 植栽は、斜め植え。普通とは逆に山側に10度ほど傾けて植え、雪で山側に押しつけられるようにした。その方が雪解け後の起きあがりが小さいと考えたからだ。
 夫婦で、これまで30haほど拡大造林してきたが、通常の地ごしらえはせず、植える場所の周囲1㎡のシバだけをナタで切って空間をあけ植えた。傾斜がきつい場所では、雪崩の予防から広葉樹の伐根を30㎝くらい残した。
 15年生で強度(30%程度)の除伐をし、四方に枝を張らせ木のバランスをよくする。
 次に、30年生で再び強度の間伐を行う。間隔に注意するのではなく、劣勢木を伐る下層間伐を行う。間伐する時期は3月か4月。秋の間伐は行わない。作業は、作業道を開設しながら間伐する業者に任せているが収支はとんとんである。
 思い切った除伐と間伐が施業のポイントである。近年間伐した7haで、残存木の雪折れがこれまで2本だったという事実が雪への対処法の確かさを証明する。
 枝打ちは30年生までに、後々に残す木だけに行っている。
 以前富榮さんは35年年の時点で間伐し、6mまで枝を打ち上げた70年生の木を立木売りし、製材した業者に役物が出る比率を調べてもらった。年輪幅は粗かったが、役物は3割でた。「この木なら立木で3割高く買ってもあう」と言われたそうだ。
 間伐後の林には1反歩に平均52本残っている。「この辺りは100年生で1反歩40本あれば十分」。70年生で収入間伐する計画だ。

■新しいタラノメの品種選抜
 柿崎家の2大作物の一つは、富榮さんが担当するタラノメの生産である。年間で440万円ほどの生産額になる。
 タラノメは、まずタラノキの穂木を育て、タラノメが発生する位置で分割し、ハウスの中で水耕栽培して発生させる。時期は冬期間である。穂木の栽培面積は、1・5haで、田だったところで栽培している。最盛期3haあった稲作は2年前にきっぱりと止めた。
 栽培しているタラノキには、富榮さん自身が山で一面に生えていたタラノキを自然交雑させて、選抜した新しい2品種がある(品種登録済みと申請中/病気に強い。成長が早い。収量が多い。トゲが少ない等の特徴がある)。
 富榮さんは当初、気温と地温を高める従来型の方法で栽培をはじめたが、どうしてもすべての芽を発生させることができなかった。そこで、山の中で自然にタラノメが発生する状況を観察してみた。気温は18度だったが、地温は4度だった。急きょ、気温のみ暖める現在の栽培方法に変えて、後は順調である。
 伏せ込んでから収穫までは散水しないため、日持ちが良くなり、出荷先の東京・中央青果の評判も上々である。
 さて、富榮さんのタラノメ水耕栽培の格言は次のとおり。
・タラノメづくりは穂木づくり。
・穂木をつくるのは土である。
・穂木と土をつくるのは人である。
 視察者が多く、ご夫妻ともに応対に忙しい日々ではあるが、その応対は丁ねいである。
 富榮さんは、「稲作農家が今生きる道を模索しているんです。私のやり方で農業人として生き延びることができるならと、本当に真剣に教えているんです」と話す。
で12㎝ほどの長さに分割

■マイタケ廃菌床の活用
 柿崎家のもう一つの作物は、ヤス子さんが担当するマイタケ生産である。娘さんの嫁ぎ先が、マイタケの施設栽培を行っていることから、その廃菌床培地を1個84円で年に6500個ほど購入している。有効な菌床約2万個から、毎年約2tのマイタケが発生する。生産額は年間160万円になる。
 春、マイタケ菌床をクリ林の斜面や畑(面積は0.1ha)に伏せ込んで軽く土で覆う。発生は9月上旬〜10月上旬である。
 栽培の注目点は次の2つ。
 ①菌床を包むビニール袋を切って、図のように窓(切れ目)を作り、2個をくっつけて埋める。写真は、数日前に視察者の前で実演したものだそうだが、すでにしっかりとくっついていた。
 ②菌床は、施設栽培でマイタケを発生させていた部位を下にして置く。このことで菌床への雨水の入り込みが防げるそうだ。
 マイタケは2つの菌床がくっついた部位から発生する。
「ビニール袋の切り方や置き方をいろいろ試したけど、簡単なこの方法が一番いい」とヤス子さん。
 スギ林に菌床を伏せ込んで、土の変わりにクリの葉っぱを20㎝厚でかけた場所では、発生環境に恵まれて、茎が長い天然に近いマイタケが発生しているそうだ。それらは販売用でなく、柿崎家の贈答用のマイタケになっている。